土地販売に支障となる古い仮登記の登記抹消をした事案(古い相手会社の代表者が不明であったため特別代理人の選定を行った事案)
相談前
不動産仲介会社からのご紹介にて、ご相談主は、ご相続した土地について古い持分全部移転仮登記がついており、売却の障害となるためこれを外したいということでした。
相談後
持分全部移転仮登記を設定している会社が現存しておらず、特別代理人選任の申立てを行ったうえ、取得時効を取得し、仮登記を抹消することができました。
弁護士のコメント
(1)古い登記が残っている場合の対応策について
古い登記に、抵当権設定登記が残っているケースは一定数見られます。このようなケースでは、抵当権設定の被担保債権について消滅時効を援用することで、比較的簡易に抵当権抹消登記請求訴訟を行うことができると考えられます。
しかし、本件は、持分全部移転仮登記をしている会社の登記が残っているため、被担保債権の消滅時効を援用して抹消することができない少し特殊な事案でした。
本登記請求がされる可能性もないとはいえず、また、何より、このように持分が全部移転してしまう仮登記が残っていることは、不動産の販売活動に悪影響があります。
そのため、本件においては、土地の取得時効を援用し、所有権に基づいて登記の抹消手続請求を行うことを検討しました。
(2)所有権の時効取得について
所有権の取得時効の要件事実は、①20年間、②所有の意思をもって、③平穏かつ公然と、④他人の物を、⑤占有することが必要です(民法162条1項)。なお、占有開始時に善意無過失であれば、①は10年間で足ります。
占有者は、所有の意思をもって善意で平穏かつ公然と占有していることが推定されますので(民法186条1項)、②と③は、特段の事情がなければ認定されます。また、前後の両時点での占有をした証拠がある場合は、占有は、その間継続したものと推定されます(民法186条2項)ので、①と⑤の占有をしている証拠は、占有開始時点と時効完成時点にて足ります。もっとも、①と⑤に関連し、時効援用する者は、時効期間の起算点を任意に選択できず、占有開始時点から起算されるものとする有名な最高裁判例があります(例えば最判昭和42年7月21日民集21巻6号1643頁)。
ここまでは法学部生でも習う典型的な内容ですが、実務上は、10年ないし20年が経過している土地の「占有開始時の占有の証拠」を集めることが非常に難しいといえます。そのため、上記最高裁判例の射程を検討する必要がありますが、最高裁の上記命題は、時効完成前後の第三者との対抗問題の処理のために必要なものであり、対抗問題が生じない当事者間の場合には、時効援用者によって時効期間の起算点を任意に選択できるとした裁判例があります(東京地判昭和44年9月8日判タ242号264頁)。
本件においても、「占有開始時の占有の証拠」はどうしても発見できませんでしたが、占有開始後の一時点で、前所有者が土地を賃貸し、借地人との間で賃貸借契約を締結していた証拠があったため、これを用いて、少なくとも同時点からは間接占有していると主張・立証することができました。なお、間接占有でも時効取得における「占有」に該当します(最判平成元年9月19日判時1328号38頁)。
(3)訴訟における特別代理人とは
古い登記や古い会社が問題となる場合、当事者である会社の存在が明らかではないということもあり得ます。
本件においても、持分全部移転仮登記をしている会社は、登記情報が取得できず、代表者が不存在または不明という状態でした。
会社を被告とする訴訟は、代表取締役が法定代理人となって訴訟活動を行うため、法定代理人たる代表者が訴訟行為を出来ない場合には、特別代理人を選定する必要があります。
本件においては、訴訟提起と同時に特別代理人の選定を申し立て、裁判所によって選定された特別代理人との間で訴訟内容を争うことで、訴訟進行させることができました。
なお、特別代理人の選定には、予納金として10万~20万円程度がかかるとされており、本件でも左記の範囲内の予納金が必要になりました。この予納金は、訴訟提起をする者が裁判所に納める必要があり、のちに回収することができないため、実負担が生じてしまうものではあります。
(4)まとめ
本件のように古い登記や古い会社が相手方となる場合には、それだけで手続が難しくなることがあります。本件は、比較的珍しい取得時効の論点があり、特別代理人の選定を行った事案としてご紹介します。
感謝の声
「親身に丁寧にご対応いただき、大変満足しております。」「また思いの外迅速に解決していただき、感謝しております。」「的確に依頼した問題点を洗い出していただき、解決に結びつけていただけた」