収益物件の登記名義を移転しない売主企業に対して処分禁止の仮処分を申し立て登記名義の移転と未払賃料を回収した事案
相談前
ご相談企業が収益物件を購入したところ、売主企業が種々の理由をつけて売買登記移転に応じず、収益物件の賃料も得られない状態でした。
相談後
ご依頼をいただき、まずは、処分禁止の仮処分を申し立て、裁判所により同処分が発令されたところ、売主企業が異議を申し立て、同手続中で、登記移転及び未払賃料の回収に関する和解ができました。
弁護士のコメント
(1)処分禁止の仮処分について
訴訟の帰趨を待っていては、相手の財産が散逸してしまうおそれがある場合に、債権を「保全」する手続が用意されています。
一般的に馴染みのある「保全」手続は、金銭債権(売掛金や貸付金等)を保全するため、債務者の財産(不動産や債券など)を仮に差し押さえる「仮差押」であるかと思います。
もっとも、本件のように、売主企業に対して、登記移転請求をしたい場合、売主企業が不動産の登記移転される前に第三者に物件を売却してしまうと、財産が隠されてしまったり、登記移転請求が難しくなるなどの弊害が生じます。
そのため、このようなおそれがある場合には、「処分禁止の仮処分」の申立てを検討すべきです。
なお、処分禁止の仮処分は、内容にもよりますが、一般的に対象となる不動産の固定資産税評価額を基準として20%程度の担保金を法務局に供託する必要があるため、このような資金繰りが可能かも併せて初期に検討すべきことになります。
(2)処分禁止の仮処分と保全異議について
処分禁止の仮処分は、債務者の主張を考慮せずに、債権者の主張のみによって発令されますが、債務者から被保全債権の存在や内容(本件でいえば登記移転請求権があること)、保全の必要性(本件でいえば訴訟の結果を待っている間に登記名義が移転されてしまうおそれがないこと)を争い、仮処分命令に異議を出すことができます。
保全異議の手続は、債権者と債務者の双方の主張を審尋期日にて行うため、訴訟に類似する手続です。
債権者は、本来であれば、処分禁止の仮処分ののち、訴訟提起をして本案にて登記名義の移転を求める必要がありますが、本件のように保全異議の審尋手続がある場合には、当該手続中で本案の内容を含めた和解交渉ができる場合もあります。
このように仮処分の本来的な効果ではありませんが、仮処分を行うことで、裁判所を交えて和解交渉をすることができる場合もあり、早期解決が可能となることもあり得ます。
(3)まとめ
本件は、M&Aに関連した債務が履行されない(収益物件の登記名義移転)という事案において、債権保全・回収の一環として、処分禁止の仮処分を活用した事例でした。
当事務所においては、M&Aに関連する紛争事案であったり、債権の保全回収の事案、不動産が関係する諸問題を多く取り扱っております。類似する事案でお悩みがございましたら、該当の業務ページをご参照ください。